客の入りがいつもより多いと厨房からはモクモクと煙が漏れ出して店内にたちこめる。煙草の煙どころではない。パニックになったマスターが気づかずに何かを焦がしているのだ。たまにはカレーが妙に美味しい。そんな時に「今日のカレーは、美味しいねー」とマスターに声をかけると、「そうでしょ。でも、どうしてだかわかないんだよねー」と答えが返ってくる。
運良く、昼休み時間内に食べ終えることができると食後にココアを頼む。たいていは美味しいのだが、二人分や三人分を同時に注文されるともうだめだ。マスターは粉やミルクの分量がわからなくなってしまうのだ。だから妙に薄いココアが出てきたりする。
ファーストフードやファミリーレストランが、いつも同じ味を提供できることをモットーとしているならば、この店は正反対である。しかも意識的にそうしてるわけではないところが魅力的だ。
この店では同じ料理を頼んでも、日によって全く違うものが味わえるのである。美味しいかどうかを別にして味だけを考えば、メニューに載っている料理の何十倍ものバリエーションを味わうことができるのである。
我々が知らずに身につけている「馴染みの店で注文した料理は、想像したとおりの味ででてくる」という常識は、この店では簡単に覆される。先の読めない昼食。まるでおみくじをひくような食事ができるのだ。
この店は今が旬だ。素人タレントがTV慣れしてつまらなくなってしまうように、マスターが料理上手になってしまっては寂しい。
マスターには、いつまでもへたくそなままでいてほうしいのである。


