Chroniques Hokkaïdoises: 今昔物語

 

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Mardi 15 mai 2007

六本木にある会社に勤めていたとき、近くにマスターが一人でやっている、カレーの専門店があった。私が初めて、一人でその店に入ったときのことである。そこにはたくさんのカレーの種類があり、辛さが何段階にも分けられていた。私は辛すぎるものが苦手なので、その旨をいうと、マスターは、「うちは辛めのほうだから、マイルドを少し甘くしてあげましょう」と親切に味を調節してくれた。運ばれてきたカレーは、今まで私が食べたものよりは辛めではあったが、とても美味しかった。

半分くらい食べたとき、私よりも少し年上といった感じの女の人が入ってきた。どことなく上品ぶった雰囲気の彼女は、「ホットをください」といった。

ホットというのは、三段階の一番上である。つまりいちばん辛いのである。マスターは私に言ったのと同じ言葉を彼女に繰り返した。ところが彼女は、「かまいません」と態度を崩さない。マスターはそれでもあげずに、「女の人だったら、相当きついと思うんですけど」と食い下がった。それでも彼女は態度を変えない。いったいどうなるのかしら、と私はスプーンをくわえながら、興味津々で事の成り行きを見守っていたのである。カレーが運ばれてくると、彼女は静かに食べ始めた。ところが口に運ぶペースがだんだん鈍り、ぼーっとしている時間が多くなった。

「おっ、だんだんきいてきたな」と見ていると、彼女はハンドバッグのなかからハンカチを出して、顔を押さえ始めた。私はカレーを食べて、あんなに汗を出す人を初めて見た。ふいてもふいても汗が噴出してくる。水をガブガブ飲むものだから、すぐマスターがコップにつぐ。彼女はすでにコップ三杯の水を飲んでいた。そしてそのあげく、彼女はテーブルに突っ伏したまま、働かなくなってしまった。誰にもたのまれていないのに、自分一人で我慢大会をやっているようなものである。

「大丈夫ですか」マスターが彼女に声をかけると、彼女は、「ほほほ」と静かに笑いながら顔を上げた。その顔はもうどろどろだった。化粧はすでに汗で流れてしまって、目のまわりは黒くにじんでいた。そしてくちびるは口紅がとれたのを、補うかのように刺激のあるスパイスで、まっかっかになっていた。急に辛いものが体内に入ってきたので、体がびっくりしてそれを薄めようと、ありったけの汗をだしたように見えた。彼女はぐったりして席を立った。そして誰に言うとわけだが、「どうもすみません」を連発しながら、よろよろと店を出ていったのであった。

par Atarô publié dans : 日本語
 

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